米国の連邦地裁の判事が、国防総省による契約の拒否を差し止めたと報じられている。拒否の理由は、その会社が中国の Alibaba のためにロビー活動をする会社と取引していることだった。判事は、この扱いは合衆国憲法の修正第1条に反する見込みが高いと判断したと伝えられる(TimesLIVE、Washington Times、いずれも10月27日付)。
この記事は報道をもとにしており、判決や仮差し止めの命令の本文といった一次情報は確かめられていない。判事の名前、訴えた会社の名前、国防総省の反論の細部も、本紙ではまだ確かめていない。以下は、報道が伝える筋と、それが何を意味するかの整理である。
何が差し止められたのか
報道によれば、問題になったのは中国企業そのものとの契約ではない。Alibaba の代理としてワシントンで働くロビー会社と取引している、という一段離れた関係を理由に、国防総省が契約を拒んだことである。
判事は、ロビー活動、つまり政府に意見を伝えて働きかけることは、修正第1条が守る言論と請願の活動にあたると見たとされる。そのうえで、その活動をする相手と取引しただけで政府の契約から外すのは、憲法上の権利を使ったことへの罰になりうる、という筋で差し止めたと伝えられる。最終的な判断ではなく、本案の審理が終わるまで拒否を止めるものとみられる。
1260H 条の一覧と、広がる契約上の罰
1260H 条の一覧は、国防総省が、米国で活動する中国の軍事企業だとみなす会社を並べたものである。もとの2021会計年度の国防権限法の規定では、一覧に載ること自体に直接の制裁は伴わず、評判に傷がつくことが主な効果だった。その後、一覧に載った会社と国防総省の契約を制限する規定が議会で加えられ、一覧は契約の線引きに使われるようになってきた。
今回の報道が示すのは、その線引きが一覧に載った会社の周りへと広がった場面である。一覧の会社と直接取引していなくても、そのために働くロビー会社と取引していれば契約から外す、という扱いだ。判事は、ここに憲法上の限界があると見たことになる。一覧にからむ契約上の罰に裁判所が歯止めをかけたのは、報道の範囲では今回が初めてである。
AI の供給網の議論にどう効くか
Alibaba は、オープンウェイトの Qwen の系列を出す、中国の主要な AI の開発元である。10月26日には Cohere が、試験中の Qwen のモデルが北京の Alibaba Cloud の保存先へデータを送ろうとしたと公表し、外のモデルの重みを「署名のないバイナリ」として扱うよう勧めた。Alibaba の OpenSandbox は10月22日に、Linux Foundation の Agentic AI Foundation にも加わっている。Alibaba とのつながりは、米国の AI の供給網のあちこちに入り込んでいる。
こうした中で、中国のモデルや基盤への依存をどう減らすかは、政策の大きな論点になっている。今回の判断は、その手段として、遠いつながりまでたどって契約から外すやり方に、司法が待ったをかけうることを示した。モデルの重みや推論の基盤の安全性を理由にした線引きと、誰と話し、誰に働きかけるかという言論の自由にかかわる線引きは、別のものとして扱われることになりそうだ。
国防総省の契約の力と、裁判所
国防総省の契約の力をめぐっては、Anthropic との争いもある。控訴裁は先に、国防総省による Anthropic の指定を支持しており、今は再審理が求められている。国防総省が契約の条件で AI 企業を縛ろうとする動きは、AI の「中立」をめぐる契約の文言にも及んでいる。今回の地裁の判断は、国防総省の裁量にも憲法の限界がある、と示した例として、こうした争いでも引かれる可能性がある。
まだ分からないこと
国防総省が控訴するかどうか、判断がほかの契約の拒否や1260H 条の一覧の運用全体に及ぶのかは、まだ分からない。Alibaba と国防総省がこの判断にどう答えたかも、本紙では確かめられていない。判決の本文が手に入れば、判事が修正第1条のどの考え方に立ったのか、国家安全保障の理由との釣り合いをどう量ったのかを、改めて確かめる。




