AIによる脆弱性発見と攻撃の高度化が現実味を帯びる一方で、その能力を単独で過信することの危うさと、企業側が抱く導入への根強い不安が同時に浮き彫りになっている。ベテランWebセキュリティ研究者のJames Kettle氏が半年をかけて実施した検証と、国内企業1000人を対象にしたMM総研の調査は、AIセキュリティの現在地が「万能の脅威」でも「安心して任せられるツール」でもない、中間的でより複雑な段階にあることを示している。
AI単独では『入り口止まり』——Kettle氏の半年実測
米ラスベガスのブラックハット・セキュリティ会議で発表されたKettle氏の検証によれば、AIに机上でゼロから新しい攻撃手法を考案させても、その能力は極めて限定的で「ようやく入り口に立った程度」にとどまった。ところが人間が重要な局面で方向性を示し検証を挟むと、AIは一転して強力な補助者となり、単独研究をはるかに凌ぐ発見速度を発揮したという。実際に彼はAIの着想をヒントに、これまで体系的に研究されてこなかった共有コードのアーキテクチャ上の欠陥を掘り起こし、わずか数カ月で特定分野の確実な脆弱性事例が、自身が数年かけて発掘した数を上回った。BigGoファイナンスによれば、同氏は「AIだけでは完全な発見プロセスを完走できないが、人間だけでもこの視点には絶対にたどり着けない」と結論づけている。
クラウド型AIへの懸念63%——MM総研調査が示す企業の本音
一方で導入側の企業には強い抵抗感が残る。MM総研が2026年7月17〜20日に実施した調査(従業員規模で割付、n=1000)では、Anthropicの「Claude Mythos」のようなクラウド型セキュリティ特化AIで脆弱性診断を行う場合、63%が「懸念がある」と回答した。理由は「自社システムのソースコードやデータがAIを通じて外部に漏洩する可能性」が44%で最多、「外部AIツールへのデータ送信」が42%、「データが国外サーバーで処理・保管される懸念」が36%と続いた。MM総研は、システムの安全性を高めるために自社コードを外部に出すリスクを負うという構造的矛盾が企業内で生じていると指摘する。自社のセキュリティ体制でAIに最も期待する領域は「防御」が42%で、「検知」の21%の2倍にのぼった。
MCPサーバーへの攻撃が急増——攻撃対象の拡大
攻撃対象そのものも拡大している。KDDI総合研究所の村上洸介氏によれば、AIが外部データやツールにアクセスするための「Model Context Protocol(MCP)」サーバーへの攻撃が急増しており、調査目的とみられるアクセスの後、一定期間を経て本格的な攻撃が増える動きも観測されているという。同研究所はAIで動的なハニーポットを構築して攻撃者を誘い込み、得られた情報をサイバー脅威インテリジェンス(CTI)へ変換する研究を進めているが、WirelessWire Newsで紹介された通り、AIが数千件単位で洗い出す脆弱性候補のうち、真に危険なものを絞り込む優先順位付けロジックの構築自体が新たな課題になっている。
猶予はわずか3〜5カ月——Palo Altoの警告
Palo Alto Networksは2026年5月の更新レポートで、130以上の製品に対する初回フルスキャンの結果、通常月5件未満のところ26件のCVE(75件の問題)を検出したと公表した。同社はSaaS提供製品の全重大脆弱性へのパッチ適用を完了済みとしつつ、「攻撃者が高度なAI機能を広く利用できるようになる前に、組織が先手を打てる猶予は現在の推定でわずか3〜5カ月」と警告している。同社ブログは、モデル間には訓練由来のばらつきがあり、全体像把握にはマルチモデルでの検証が必須だとも述べている。
業界の集団対応と2200億ドル市場
こうした状況を受け、OpenAI、Anthropic、Google、Microsoft、NTT DATAなど155組織は2026年8月、既存の脆弱性・過剰権限・設定ミス・レガシー技術的負債への対応が不十分なままではAIによる攻撃高速化に耐えられないとする公開書簡に署名した。セキュリティ対策Labによれば、評価指標も「AI製品を何件販売したか」ではなく「何組織を保護できたか」「修正が実際に機能したか」に転換すべきだとしている。モルガン・スタンレーの推計では組織の約14%が既にAI関連セキュリティインシデントを経験し、現在のサイバー攻撃の約80〜90%にAI生成の特徴がみられるとされ、TradingKeyによればAIセキュリティ市場は160億ドルから450億ドル超へ、年平均成長率30〜40%で拡大すると見込まれている。ただしZDNet Japanが報じるように、AIシステムには既知の解決策が存在しない深刻な脆弱性の種類も残されており、市場拡大と技術的限界は表裏一体の関係にある。