世界のベンチャーキャピタル(VC)マネーがAIに一極集中する中、日本はその資金流入からほぼ取り残されている。経済協力開発機構(OECD)が2026年2月17日に公表した報告書によれば、2025年の世界VC投資2587億ドルのうち61%がAI関連企業に投じられ、3年前の30%からわずか3年で倍増した。しかも1億ドル超のメガディールが投資総額の73%を占め、AIインフラ領域単独への投資は1093億ドルに達している。NewsPicksの解説では、この構造が「AIで何を作るか」から「AIを動かす基盤を誰が握るか」への資金の重心移動を示すと指摘されている。
世界基準で見た「日本1%未満」の重み
日本経済新聞の報道によると、2025年の世界のAI関連企業への投資額は2679億ドル(約42兆円)と前年比8割増え、全体の52%と初めて過半数を超えた。投資先の大半は米国企業で、首位はChatGPTを開発するOpenAIだった。これに対し日本はシェアの1%にも満たず、世界全体のVC投資(30%増の5113億ドル)と比較しても後れが際立つ。KPMGの調査でも、2025年第3四半期のアジアVC投資16.8億ドルのうちアジア最大は中国の84億ドルで、日本はわずか13億ドルとインド(32億ドル)にも及ばなかった。
国内スタートアップの資金調達額を数字で確認する
Tracxnの集計では、日本のAI企業301社のうち資金調達に成功したのは108社、シリーズA以上は62社、シリーズB以上は51社にとどまる。年間調達額は2025年が最高で5.71億ドル、2024年が4.77億ドル、2026年は年初来で1.63億ドルと、世界のメガディール規模とは桁が異なる。直近の大型案件でも、自動運転関連のTuringが2026年7月にシリーズAで約13.1億円、医療AIのMENOUが6月にシリーズBで約73億円、Morgenrotが5月に約65.2億円を調達するなど、いずれも数十億円規模が中心で、OpenAIやMistralの十億ドル単位の調達とは水準が違う。
「作る」より「呼び込む」――巨大インフラ投資が穴を埋める
その一方で、日本には海外資本によるインフラ誘致型の投資が相次いでいる。マイクロソフトは東京訪問したブラッド・スミス社長を通じ、2026年から2029年にかけて日本のAI・サイバーセキュリティ基盤に100億ドルを投資すると発表した。技術インフラ、信頼フレームワーク、人材育成の3本柱で構成され、ソフトバンクやさくらインターネットと連携してデータセンター容量を拡大し、2030年までに100万人のエンジニア・開発者育成を目指すという。MarketScaleの報道は、この投資が「機密データとAI処理を国内に留める」ソブリンAI戦略の一部だと位置づけ、マイクロソフトが2024年に約29億ドルを投じた過去の日本投資に続くものだと解説している。
企業内ベンチャーキャピタル(CVC)の動きも顕在化している。シリコンバレーのPegasus Tech Venturesは、通販大手ジャパネット向けに運用するCVCファンドを4倍の2億ドルに拡大したと発表した。自動車部品大手アイシンも同社運用ファンドを1億ドルに倍増させている。同社創業者兼CEOのアニス・ウザマン氏は「日本企業は焦っている。AI革命が起きていることを分かっているが、米欧に比べて導入が遅れている」と語り、人口減少による製造現場の人手不足がフィジカルAIやロボティクス、自動化への需要を後押ししていると説明する。ただしPegasusの投資先の約7割は米欧のスタートアップであり、資金は日本発ではなく海外の技術を輸入する形で流れている実態も浮かぶ。
国内VCは静かな二極化と選別を強める
TECHBLITZの調査に応じたジャフコは、2025年の国内調達額は総額として大きく変わらないものの、案件ごとの金額分布は広がり、AIを基盤に産業特有の課題を解く企業では数十億円から400億円規模の大型ラウンドも出現したと振り返る。一方でアーリーからグロース期にかけては、東証改革による時価総額の捉え方の変化やファンドパフォーマンスへの意識から、投資家が企業価値や成長計画をより丁寧に見極める傾向が強まっているという。ジェネシア・ベンチャーズは、AIの急速な進化によって従来混み合っていた市場にホワイトスペースが生まれ、シードVCが投資できる領域自体が広がったと指摘し、2026年に4号ファンドを立ち上げ国内投資先の8割以上をプレシード・シード期で実行している。
ディープテック集中という長期シナリオ
調査会社の予測では、日本のVC市場全体は2035年までに943億ドルへ約4倍に拡大し、年平均成長率16.71%が見込まれている。AI・半導体・ロボティクス・宇宙技術を含むディープテック領域が今後増加する資本の大半を吸収し、東京大学や京都大学系のベンチャーファンドがバイオ・先端技術分野で存在感を増すとされる。世界全体でAIインフラに資金が偏在する構図が続く限り、日本のVCが自前でAI基盤を構築する道は狭く、海外の巨大インフラを前提にアプリケーション層や現場データで勝負する戦略が、当面の現実的な選択肢として定着していきそうだ。




