1年で24倍——新興AIファンドの急成長
元OpenAIのスーパーアラインメントチーム出身の研究者、レオポルド・アッシェンブレナー氏が率いるヘッジファンド「Situational Awareness LP(SALP)」が、2026年に入り市場の注目を集めていた。同氏はAGI(汎用人工知能)が2027年に到来すると予測するエッセイで知られ、2024年末に約2億2500万ドルだった運用資産は、2025年末には55億2000万ドルまで膨張し、12カ月で24倍という成長を記録したとmoomooが報じている。設立から半年で純リターン47%を達成し、同期間のS&P500上昇率が6%未満、テクノロジー系ヘッジファンドの平均リターンが7%程度だったことと比較しても際立った成果だったとされる。
「AIをロングしながらAIをショート」する戦略
アッシェンブレナー氏の運用の核心は、AGI到来の確信を維持しながらも、AI競争の後半戦は半導体チップではなく電力供給が鍵になるという見立てにあった。TradingKeyの報道によれば、同ファンドは2026年第1四半期満期の半導体株プットオプションに想定元本ベースで最大約80億ドルを投じ、NVIDIA、Broadcom、AMDおよびVanEck Semiconductor ETFを空売りする一方、Core Scientific、Riot Platforms、IREN、CleanSpark、Bitfarms、Bitdeer、Hive Digitalなどビットコインマイニング関連株を積極的に買い増していた。過去1年間でNVIDIAは63%、Broadcomは81%、AMDは256%上昇していたなかでの逆張りショートであり、チップは供給過剰に陥るが電力インフラは希少資源であり続けるという「第一原理」に基づく判断だったとされる。
2026年7月の暴落——収益率マイナス67%
だが2026年6月22日をピークにSOX(フィラデルフィア半導体株指数)、KOSPI、日経平均が下落局面に入ると、SALPの運用は急速に崩れた。野村證券のストラテジストの解説によれば、AI・半導体株をレバレッジ運用していた同ファンドの7月の運用収益率はマイナス67%に達し、その後資産の大半をシタデルに売却したため、7月29日以降の相場反発局面を逃したという(野村ウェルスタイル)。同氏は24歳で、配偶者は米Anthropic CEOの首席補佐官を務めているという人物関係も報じられており、AIを深く理解する立場にあっても相場運用の難しさを物語る事例として扱われている。BigGo Financeの報道でも、推定450億ドルを集めていたとされる同ファンドが数週間で資産の約3分の2を失ったと伝えられており、マン・グループのリサーチャー、ハリー・ムーア氏は「書類上ドルニュートラルに見えるポートフォリオでも、テーマが足元をすくう」と評した。半導体の売り持ちとソフトウエアの買い持ちを組み合わせた運用者は、トレードが反転した際に両方から打撃を受けたと分析されている。
業界全体を揺るがしたAI株の急落
SALPの急落は個別事例にとどまらない。ロイターの報道では、世界のヘッジファンド業界は2026年上期にAI関連銘柄の上昇を追い風に好調な運用成績を上げ、年間ベースで過去最高水準となる可能性が指摘されていた(ロイター)。しかし7月に入るとAI株の急落を受け著名ファンドの運用成績が軒並み悪化したとBloombergがNewsPicks経由で報じている。市場では「AI関連なら何でも買われる」という混雑トレードの巻き戻しが起き、追加担保対応のための売却が売却を呼ぶ悪循環が生じたと指摘されている。中国の生成AI創業者ファンドでも巨額損失が話題となっており、SALPの損失規模はそれを上回る事例として位置づけられている。
専門家が指摘する構造的教訓
マン・グループの新たな論文「ポータブルアルファ:厳しい質問をせよ」では、既存の株式エクスポージャーの上にトレンドフォロー戦略を重ねる手法において、ベータ部分に証拠金10%に加え自由現金30%、合計40%の現金バッファーを確保することが危機を生き延びる分岐点になると論じられている。過去26〜27年のバックテストでは、20%の薄いバッファーではITバブル崩壊、世界金融危機、コロナ禍の3回で完全に枯渇したのに対し、40%のバッファーがあれば強制的なレバレッジ解消が発生する確率はおよそ100〜200年に1度に抑えられるという試算が示されている。SALPのケースは、実績の乏しい若い運用者が巨額のレバレッジを用いる危うさと、老舗の分散型リスク管理の重要性を対比する象徴的な事例として、金融業界内で継続的に議論されている。




