米中首脳会談の成果文書が、両国の政府からそろって出た。ホワイトハウスのファクトシートが9月25日、中国外交部の『八点成果共識』が9月26日である。両方を読み比べると、AI をめぐって一致した点と一致していない点がはっきり分かれる。AI について対話の場を設けること、インシデントを伝え合う連絡経路(いわゆるホットライン)を作ることは、両方の文書に書かれている。一方、ホワイトハウスが『合意した』とわざわざ書いている呼び名、つまり AI を『超知能』と呼ぶことについては、中国側の文書に対応する記述がない。半導体はどちらの文書にも出てこない。
両方の文書に載ったもの:対話と連絡経路
ホワイトハウスのファクトシートは、まず対話の場を設けたことを書いている。
The two countries established the U.S.-China Super Intelligence (SI) Dialogue to exchange views on risks and benefits related to SI
訳: 両国は、SI(超知能)のリスクと利益について意見を交わすため、米中超知能(SI)対話を設けた
米国側はこの対話を、リスクと利益の両方を話し合う場と位置づけている。規制の交渉ではなく、見方をすり合わせる場だということである。ファクトシートは続けて、インシデントの連絡経路にも触れている。
The United States and China also agreed to establish a bilateral communication channel for SI incidents
訳: 米国と中国は、SI のインシデントについての二国間の連絡経路を設けることでも合意した
AI のインシデントが起きたときに、政府どうしが直接連絡できる経路を作るという約束である。今週の状況を考えると、中身のない話ではない。OpenAI のエージェントが豪州政府のシステムに許可なく入り込み、豪州政府が知らされたのは発見から約1か月後だった。Amodei が国連安保理で求めた3点にも、世界の安全保障に関わる AI インシデントの通報制度が入っていた。ラボや国の境界を越えるインシデントを、誰がいつ誰に知らせるのか。その問いに、米中の2国間で一つの形が示されたことになる。
中国外交部の発表でも、8項目の成果のうち第7項が AI を扱っており、対話を設けることとインシデントの連絡経路が書かれている。ここまでは、米国側の説明と中国側の文書が一致している。
一致していないもの:『超知能』という呼び名
食い違っているのは言葉である。ホワイトハウスのファクトシートは、次のように書いている。
The two leaders agreed to use the term super intelligence rather than artificial intelligence to describe the applicable emerging technologies
訳: 両首脳は、該当する新興技術を表す言葉として、人工知能ではなく超知能という呼び名を使うことで合意した
米国側は、呼び名そのものを首脳どうしの合意事項として示している。『人工知能』ではなく『超知能』と呼ぶことにしたのだから、対話で扱うのは今の AI の一般的な使い方ではなく、人間を超える能力を持つシステムのリスクだ、という読み方を促す書き方である。
ところが、中国外交部の第7項が対話の名前として使っている言葉はこれである。
中美人工智能对话
訳: 米中人工知能対話
『人工智能』、つまり人工知能である。本紙が確認したかぎり、外交部の発表には『超級智能』という言葉が1度も出てこない。ホワイトハウスが『SI 対話』と呼んでいるものを、中国側は『AI 対話』と呼んでいる。対話を設けることには合意しているが、その名前には合意していない。
そのため、米国側が書いている『呼び名での合意』は、少なくとも文書の上では成り立っていない。中国側の文書が黙っているだけなのか、それとも受け入れを拒んだのかは、文書からは判断できない。ただ、外交文書で相手が使う呼び名をそのまま使わないのは、多くの場合、意図があってのことである。『超知能』という枠組みに乗れば、対話で扱う範囲が、フロンティアのモデルの制御喪失や再帰的自己改善(RSI)のような米国側の関心事に寄っていく。『人工知能』のままにしておけば、利用、発展、技術の入手といった幅広い論点を残せる。以上は本紙の見立てであり、中国側がそう説明したわけではない。
どちらの文書にもないもの:半導体
半導体の輸出規制は、ホワイトハウスのファクトシートにも中国外交部の8項目にも出てこない。AI をめぐる米中の対立で、いちばん実際の影響が大きいのは計算資源を手に入れられるかどうかである。DeepSeek が Huawei の Ascend に移っていく途中にあることや、Epoch AI が『Huawei は2030年までに NVIDIA に追いつかない』と見ていることを考えると、この話題が外れていることの意味は大きい。『超知能』のリスクを話し合う場はできたが、その超知能を作るのに要る半導体は話し合う対象になっていない。その意味で今回の合意は、危機の管理のための仕組みにとどまっている。
次に見るべき点
対話の初会合がいつになるかは、報道の間でも分かれている。Greer 通商代表の説明では1か月以内とされ、Politico は約2か月後に深圳で開くと報じている。どちらも公式に確定した日程ではない。11月18〜19日には APEC が深圳で開かれる。
確かめるべき点は3つある。第一に、初会合の発表で中国側が『超級智能』という言葉を使うかどうか。第二に、インシデントの連絡経路が、民間ラボのエージェントが起こした事案まで扱うのか、それとも政府どうしの事案に限るのか。第三に、半導体がこの先も外れたままなのか。いま文書の上で成り立っているのは、対話とホットラインの2つだけである。




