学研ホールディングス傘下の学研教育総合研究所が2025年2月に公表した「小学生白書・中学生白書・高校生白書2024」によると、将来なりたい職業で中学生男子の1位、高校生男子の1位はいずれも「エンジニア・プログラマー」だった。比率は中学生男子で7.0%、高校生男子で7.3%と、それぞれの学年でトップを占める。全体順位でも中学生では「会社員」(4.2%)に次ぐ2位が「エンジニア・プログラマー」(4.0%)、高校生では「公務員」(5.0%)に次ぐ2位が同職種(4.5%)となっており、性別を問わず根強い人気がうかがえる。学研教育総合研究所の調査はこの傾向を明らかにした。
AIがコードを書く時代の「プログラマー」像
この調査結果が興味深いのは、生成AIによってプログラマーの実務そのものが急速に変質している最中に発表された点だ。コーディングエージェントが単純な実装作業を自動でこなし、開発者は自然言語で意図を伝えるだけでアプリやツールを組み立てる「vibe coding」が実務現場で広がっている。かつての「プログラマー」が担っていた、仕様書に沿って一行一行コードを書く作業は、AIが下書きを生成し人間が検証・修正する分業へと移行しつつある。
子どもたちがイメージする「プログラマー」と、実際に業界で起きている職務内容の変化との間には、すでに小さくないギャップが生まれている可能性がある。エンジニア・プログラマーという職業名は残っても、求められるスキルセットは大きく様変わりしているのが実情だ。
職業人気の裏にある「安定志向」との共存
調査では高校生の1位が「公務員」(5.0%)、中学生の1位が「会社員」(4.2%)であり、いずれも安定志向の強い職業が最上位に来ている。エンジニア・プログラマーがこれに次ぐ2位につけていることは、IT職が「安定した専門職」として認識されていることを示唆する。実際にはAIエージェントの登場でエンジニアの業務範囲は、コードレビューやAIの出力を検証するLLM-as-judge的な役割、複数のAIツールを束ねるAIオーケストレーションの設計など、より上流かつ抽象度の高い仕事へとシフトしている。
教育現場が追いつくべき変化の速度
小学生の1位は8年連続で「パティシエ」(女子9.8%)、男子は「ネット配信者」「サッカー選手」(いずれも4.5%)が並び、幼少期の職業イメージは依然として身近な体験に基づく。しかし中高生になると「エンジニア・プログラマー」が急浮上する背景には、学校教育でのプログラミング必修化やIT業界の給与水準への期待があると見られる。一方で、実際の採用市場ではMCPを使った外部ツール連携や強化学習環境を用いたAIエージェント訓練など、数年前には存在しなかった専門領域が急速に立ち上がっている。教育カリキュラムがこの速度に追いつけるかは、今後の日本のAX(AIによる業務変革)の成否を左右する論点になる。
企業と個人が今取るべき対応
企業側は「プログラマー」という肩書きで採用を続けつつも、実務内容を再定義する必要に迫られている。新人研修ではコードを書く技術だけでなく、AIエージェントへの指示設計やAIガードレールの理解、出力の妥当性を判断する能力の育成が急務だ。個人のキャリア形成という観点でも、単に「コードが書ける」ことの市場価値は相対的に低下し、AIを使いこなして成果を出す能力こそが評価軸になっていく可能性が高い。中高生の職業志向が示す人気の高さと、産業構造の変化速度との差をどう埋めるかが、今後数年の教育・採用政策の焦点になるだろう。




