仕事と社会分析

AI活用格差はもう高齢者だけの話ではない――世界普及率16.3%の裏で広がる三重のデジタルデバイド

世代間・国家間・教育現場、日本総研や文科省のデータが示す格差固定化の構造

山本 浩二|2026.09.28|7分|更新: 2026.09.28

Microsoftの調査で世界のAI普及率16.3%、米国は労働年齢人口の利用率28.3%で世界順位23位から24位へ後退。日本では70歳以上の57.8%が端末未利用。教育現場でも活用格差が懸念され、格差は多層化している。

Key Points

Business Impact

経営者は自社のAI研修を「高齢層向け」「若手向け」に二分せず、世代・地域・所属組織の3軸で活用度を可視化し、リコーの若者向けプログラムのような実務直結型トレーニングを来期予算に組み込むべきだ。国家間格差の教訓(UAE・シンガポールの政府主導投資)は、社内でも経営層がAI活用を明確な戦略目標として掲げなければ普及が進まないことを示している。

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AI活用の格差というと高齢者のスマートフォン利用率の低さがまず連想されがちだが、実態はより複雑で多層的だ。世代間格差、国家間格差、そして教育現場での格差固定化という3つの断層が同時に進行しており、単一の対策では解消できない構造になっている。

世界を二分するAI経済圏
出典: NewsPicks
高齢者のデジタル・ディバイド問題の現状と、自治体の今後の取り組みの方向性示唆|日本総研
出典: 日本総研

世界規模で広がるAI普及の南北格差

マイクロソフトの研究機関Microsoft AI Economy Instituteが2026年1月8日に発表した「Global AI Adoption in 2025 H2」によれば、2025年下半期時点で世界人口に対する生成AIの普及率は16.3%にとどまる。首位はアラブ首長国連邦(UAE)で普及率64.0%、次いでシンガポールが60.9%と、比較的小規模な国家が政府主導のビジョンによって高い浸透率を実現している。UAEは2017年時点で既にAI担当大臣を任命し、国家戦略としてAI活用を推進してきた経緯がある。一方、AIインフラと最先端モデル開発で世界をリードするはずの米国は、労働年齢人口における利用率が28.3%にとどまり、世界順位は23位から24位へと後退した。NewsPicks(林雅之氏解説)が指摘するように、AI技術の開発力と社会への普及力は必ずしも相関しないことが浮き彫りになっている。さらに中国発のDeepSeekは中国国内で89%という圧倒的シェアを持ち、ベラルーシ56%、キューバ49%、ロシア43%でも主要プラットフォームの地位を確立、アフリカでは他地域の2〜4倍の利用率を記録していると推計される。オープンソースモデルが西側の規制や制裁の影響を受けにくい地域で独自のエコシステムを形成しつつあり、米国中心のクローズドAI経済圏と中国中心のオープンAI経済圏への分断が進んでいる。

日本国内の世代間デジタルデバイド

日本総研の分析によると、2020年度に内閣府が実施した「情報通信機器の利活用に関する世論調査」では、スマートフォン・タブレットを「ほとんど利用していない」「利用していない」と回答した人の割合が60〜69歳で25.7%、70歳以上では57.8%に達した。日本総研の報告は、日本が2007年に高齢化率21%を超える「超高齢社会」に突入し、2021年には65歳以上人口が29.1%に達したことを背景に、世代間の情報格差が長年の課題であり続けていると指摘する。対策として総務省は令和2年度第3次補正予算で「デジタル活用環境構築推進事業」に11.4億円を計上し、携帯ショップや公民館でオンラインサービスの説明会を実施。東京都も令和3年度予算で「デジタルデバイド是正に関する取組」に3億円を計上し、区市町村やNPOと連携したモデル事業を展開している。総務省の令和5年通信利用動向調査では個人(6歳以上)のインターネット利用者割合が86.2%に達しており、全体の底上げは進んでいるものの、高齢層の未利用率の高さは依然として大きな溝として残る。

教育現場で固定化しかねない「学校間の活用格差」

格差は年齢だけの問題ではない。文部科学省が2026年9月25日に公表した次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)は、外国語学習向けのAIや汎用型AIの活用が学習指導要領に明確に位置付けられていないことが、学校現場での活用格差を生み、外国語学習の「量」や「質」の差につながることへの懸念を明記した。文部科学省の審議まとめは、2040年には生産年齢人口が約1,100万人不足すると予測される一方、生成AIやロボットによる自動化で事務職などに約437万人の余剰が生じ、AI・ロボットを活用できる専門的・技術的人材は約339万人不足するという深刻な需給ミスマッチも示している。つまり、学校段階でAI活用スキルに触れる機会の有無が、そのまま将来の職業選択やキャリアの選択肢の差に直結しかねない。

若年層の中にも存在する情報格差

デジタルネイティブとされる若年層であっても格差は例外ではない。リコーとリコージャパン、認定NPO法人育て上げネットは2024年11月6日、「若者向けデジタル支援プログラム-AIでお仕事体験編-」の4回目を発表した。リコーの発表によれば、PCに触れる機会や新しい技術に触れる機会の少なさが若者の就労へのハードルを上げているとして、2024年11月19日から29日、2025年2月18日から28日にかけて東京・宮城・和歌山・福岡でプログラムを実施。生成AIを使ったデザイン制作の仕事体験や、サンドラッグ・林建設からの実務発注を伴う成果物提出まで行い、実務に近い体験を提供した。ジチタイワークスの解説も、デジタルデバイドが「地域間」「個人間」「国際間」の3類型に分かれ、個人間の格差は年齢・収入・障害の有無などによっても生じると整理しており、若者だから格差がないという前提自体が誤りであることを示している。

企業・投資家が動き始めた格差是正の現場

民間でも対応が進む。ソフトバンクは電気通信大学と共同開発したAI手話認識サービス「SureTalk」を通じ、聴覚障がい者と音声ユーザーの円滑なコミュニケーション環境づくりを進めるほか、全国でスマホ教室を継続開催している。NECは2024年10月にアイシンと共同開発した「NEC Personal Consultant」でデジタルに不慣れな利用者にも配慮した非言語コミュニケーションを取り入れたデジタルヒューマンを展開している。投資の世界でも三井住友DSアセットマネジメントのインパクトマップは、デジタルデバイドを投融資先が抱える明確な「リスク」として明記し、学習インフラや情報プラットフォームへのアクセス向上を重要な投資テーマとして位置付けている。世代・国家・教育の三重構造で進む格差は、もはや福祉的配慮の対象にとどまらず、企業の人材戦略や投資判断の重要な変数になりつつある。

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