中国が公表した第48号公告の附属の目録について、中身が報じられている。新華社(10月16日)、新京報、英語圏の解説記事のCellCogの報道をまとめると、目録は大規模モデルの重みと訓練手法を輸出制限の対象にしている。対象になるのは、学習計算10^26 FLOP、パラメータ2兆、世界の上位10位のどれか1つを満たすモデルだという。報道のとおりなら、中国はフロンティアモデルそのものを輸出管理に入れたことになる。
ただし、この記事は報道に基づいている。附属の目録の原文には届いておらず、数字の定義、適用の範囲、例外の有無は確かめられていない。以下の数字は、どれも報じられた内容として扱う。
目録の3つの基準:計算量、規模、順位
報道によれば、目録はモデルを3つの基準で拾う。
学習計算10^26 FLOP
訓練に使った計算の総量で線を引く。米国が2025年1月に出し、5月に撤回した AI 拡散規則も、モデルの重みの管理に同じ10^26 という線を使っていた。EU の AI Act がシステミックリスクの目安にしている10^25 より1桁高い。計算量で線を引くのは各国でおなじみのやり方で、目録もそれにそろえたとみられる。
パラメータ2兆
計算量と別に、モデルの大きさでも線を引いたと伝えられる。今のフロンティアの大規模な MoE は、総パラメータが1兆前後から数兆にある。例を挙げると、中国勢では Kimi K3 が総2.8兆、Xiaomi の MiMo-V2.6-Pro が総1.02兆である。米国勢では Microsoft の MAI-Base-2 が総2.8兆と発表され、Meta の Muse Spark Open は816B である。2兆という線は、中国のオープンウェイトの最上位の一部にちょうどかかる高さになる。Alibaba は Qwen4.5 と Qwen5 で5兆〜10兆パラメータを目指すと語っており、DeepSeek は2兆のモデルを訓練中だと報じられている。これらが出れば線を大きく超える。なお、2兆という目安は附属の原文ではまだ確かめられていない(既報の未解決の論点)。
世界の上位10位
3つ目は絶対の数字ではなく、世界の中での順位である。報道によれば、上位10位に入るモデルは、計算量や規模に関係なく対象になる。どの指標の、どの時点の順位を使うのか、誰が判定するのかは、報道からは読み取れない。計算の効率が急に上がって、10^26 FLOP にも2兆パラメータにも届かない小さなモデルが最上位に並んでも取りこぼさないための基準と読める。StepFun の Step 5 Preview は総600B で、2.8兆の Kimi K3 と同じ水準の点を取っている。規模の線だけでは追いつかない、という事情がうかがえる。
3つのどれか1つを満たせば対象になる、という組み立てが要点である。計算量か規模か順位のどれかに当たれば、フロンティアのモデルはほぼ漏れなく網にかかる。
AIによる脆弱性の発見も対象に
報道によれば、目録には AI を使って脆弱性を見つける技術も入っている。モデルの重みとは別に、フロンティアのサイバー能力を名指しで輸出管理に入れたことになる。
この1か月で、ここは安全保障の最前線になっていた。Anthropic は9月29日、Z.ai の GLM-5.3 が ExploitBench で攻撃コードを最後まで作ることに12%成功したと報告した。Claude Mythos Preview の14%に近い数字である。Epoch AI は10月16日、オープンウェイトのモデルのサイバー能力は閉じたモデルより6〜7か月遅れていると見積もった。Mythos と Project Glasswing が見つけた欠陥が公表の翌日に悪用された例も出ている。AI による脆弱性の発見は、防御にも攻撃にも使える技術として扱われるようになった。中国がこれを輸出管理の目録に入れたのは、米国のラボが Cyber Verification Program や Daybreak で申し込み制の段階的なアクセスを設けてきたのと同じ問題意識から出ていると読める。
重みと訓練手法を押さえることの意味
目録が押さえるのは製品やサービスではなく、重みと訓練手法だと報じられている。モデルの能力は重みにあり、それを作る力は訓練手法にある。両方を管理の対象にするということは、フロンティアモデルを作る力と、できあがったモデルの両方を、国の外へ出すときに国が許可を出すものにしたことになる。
米国では、チップの輸出管理は続いている一方で、モデルの重みそのものを管理する規則は拡散規則の撤回とともに消えた。報道のとおりなら、フロンティアモデルの重みを輸出管理の目録にはっきり載せた主要国は、いまは中国のほうになる。
確かめられていないこと
附属の原文が読めていないので、いちばん大きな問いに答えが出ていない。オープンウェイトの公開を「輸出」として扱うのかという点である。DeepSeek、Qwen、Kimi、Z.ai、MiniMax、StepFun は、重みを Hugging Face で公開する路線をとってきた。10月17日にも、DeepSeek が V4.1-Flash-1017 の重みを MIT ライセンスで出したばかりである。重みの公開が輸出に当たり許可が要るのなら、2兆パラメータを超えるような次の世代の重みを中国のラボが自由に公開することは難しくなる。逆に公開を外すのなら、管理の実効は限られる。報道からは、どちらとも決められない。
ほかにも、次のことが分かっていない。
・10^26 FLOP の数え方:事前学習だけか、事後訓練や蒸留も足すのか。
・上位10位の判定:どの評価を基準にし、いつ順位を見直すのか。
・訓練手法の範囲:論文の公開や、訓練コードの公開も対象に入るのか。
・すでに公開した重みの扱い:Kimi K3 のように、目録の前に出した重みはどうなるのか。
既報の論点では、意見の締め切りが11月15日とされ、その前に五中全会(10月26〜29日)があり、米中の超知能をめぐる対話も11月まで続く。米国の反応も、まだ出ていない。附属の原文で3つの基準と脆弱性の発見の項目が確かめられれば、中国がフロンティアモデルを国の管理のもとに置いたという読みが固まる。それまでは、報道を通じて見えた輪郭として受け止めるべきである。




