コラム報道

オーバーツーリズムの倫理的ジレンマ:92%の若年層が自然保護を重視する一方で観光地が直面する持続可能性の限界

ベネチア、パリ、バルセロナで始まる「未踏の旅」と100年ビジョンの保全モデルが示す新しい観光の形

綾瀬 蒼|2026.05.26|10|更新: 2026.05.26

Gen ZとMillennial世代の92%が自然保護を重視する旅行を選ぶ中、ベネチアやパリなどの人気観光地ではオーバーツーリズムが深刻化。Intrepid Travelの代替ツアーや、Singitaの100年ビジョンによる保全モデルが、倫理的観光の新しい方向性を示している。

Key Points

Business Impact

次回の旅行では、混雑した定番スポットを避けて地元コミュニティとの深い交流を重視する選択肢を検討する価値がある。自然保護活動に参加できる宿泊施設や、地域の持続可能性に貢献する体験を優先することで、より意義深い旅行体験を得られる可能性が高い。

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現代の観光業界は、かつてない倫理的ジレンマに直面している。Hospitality Netの調査によると、Gen ZとMillennial世代の旅行者の92%が自然・野生動物保護を旅行先選択において重要視し、90%が地域コミュニティ支援と責任ある観光を重視している。さらに注目すべきは、37%の旅行者が目的地の持続可能性実践が旅行決定に「大きく」または「完全に」影響すると答えている点だ。この数値は、観光業界における価値観の根本的な変化を示している。

How Gen Z and Millennials Are Reshaping Sustainable Travel
出典: Hospitality Net
Intrepid Travel reimagines day trips in Europe's most overtouristed cities
出典: Travel Weekly

ヨーロッパ主要都市で始まる「代替観光」の実験

オーバーツーリズムが深刻化するヨーロッパの主要都市では、革新的な解決策が模索されている。Intrepid Travelは、ベネチア、パリ、バルセロナで従来の観光ルートを避ける「Uncommon」シリーズを開始した。ベネチアの「Uncommon Venice」ツアー(2.5時間、128ドル)では、観光客で溢れる運河を離れ、中世から続くPescheria di Rialto市場や女性経営のチョコレート工房を訪れる。バルセロナの「Uncommon Barcelona」(3時間、96ドル)では、旧市街の高級化圧力に直面するEl Born地区のコミュニティガーデンや、観光客の少ないEl Clot地区の地元市場を巡る。

パリの「Uncommon Paris」(2時間、89ドル)では、地元の朝市で焼きたてのペストリーを楽しみ、都市の喧騒から離れた静かな公園を訪れる。ツアーガイドのBenoit Collasは「パリは世界で最も訪問者数の多い都市の一つとして、明らかにオーバーツーリズムの問題を抱えている」と指摘する。これらの取り組みは、「1週間でイタリア全土を回る」ような急ぎ足の観光から、「より少なく見て、より多く体験する」マインドフルな旅行への転換を促している。

自然環境を基盤とするビジネスモデルの重要性

アジア太平洋地域で展開するOUTRIGGER Resorts & Hotelsは、自然環境の保護を事業の中核に据えている。同社のJason Zvatora氏は「私たちはビーチフロントという空間を所有している。世界でそのビーチフロント体験に特化したブランドは他にない。だからこそ保全は私たちが行うすべてに組み込まれている」と説明する。同社のOUTRIGGER Zone(Ozone)と呼ばれる持続可能性プログラムは、Green SealやGreen Key認証に先駆けて開始され、サンゴ礁の復元、リーフ保護、ビーチクリーンアップを長年にわたって運営に組み込んでいる。

最近、フィジー、モーリシャス、タイの施設でGreen Key認証を完了し、残りのポートフォリオも追随予定だ。開発面では、すべてのリニューアルプロジェクトで持続可能なデザイン原則、プラスチック削減、地元調達を基本要件として取り入れている。タイのピピ島では、63室のヴィラ・スイート専用施設Outrigger PP Beach Resortが大規模な再配置を経て開業し、同ブランドのタイ市場への深耕とOUTRIGGER基準への資産再配置モデルを示している。

100年ビジョンによる保全と商業的成功の統合

Singitaは、アフリカで展開する高級サファリロッジチェーンとして、100年ビジョンに基づく保全活動を事業の柱としている。野生復帰と生態系復元には数十年を要するため、同社の長期的な視点は、荒野の景観復元、絶滅危惧種の保護、周辺コミュニティの権利向上を持続的な影響を生み出すよう設計されている。現代の旅行者が自分の支出を有意義な活動に充てたいと考える中、目的主導の管理は優れた倫理観であるだけでなく、賢明なビジネスモデルでもある。

同社は運営地域の保全NGOとパートナーシップを組み、文化的管理の側面を含むコミュニティパートナーシッププログラムを展開している。これには質の高い教育へのアクセス、職業技能開発、雇用創出、農村企業開発、環境意識向上、持続可能な資源利用、女性の権利向上といった幅広い社会経済的介入が含まれる。2020年には、スタッフの航空機移動と宿泊客の滞在夜数による排出量を補償するカーボンオフセットプログラムを開始し、再生可能エネルギーへの投資と全施設でのエネルギー使用量監視・削減に取り組んでいる。

島嶼地域における海洋体験経済の新たな価値創出

島嶼観光地では、海洋アクティビティが重要な収益源となっているが、多くのホテルオーナーがこの「資産の下にある資産」を見落としている現状がある。Hospitality Netの分析によると、島嶼のリゾート地を訪れる旅行者は、自然・野生動物保護、地域コミュニティ支援、環境負荷削減に特に高い重要性を置いている。ブランドレジデンス市場で見られたパターンと同様に、早期に海洋体験経済に参入した事業者が立地、ブランドプレミアム、運営ノウハウを確保する一方、後発参入者はより多くのコストを支払ってより少ない価値しか得られない構造が生まれている。

この傾向は、ExpediaGroupが発表したExpedia Trails Fundの設立にも表れている。同社は今後30年を見据え、記録的な数の旅行者がアウトドアを目指す中、数年間の取り組みとして、何百万もの旅行を促すトレイル、公園、海岸線の復元、保護、将来保証を行うコミットメントを開始した。宿泊、目的地、アクティビティ、交通機関のパートナーにとって、これは責任であると同時に機会でもある:より目的のある旅行への需要に応えながら、世界で最も愛される場所の保護を支援することが求められている。

政府政策と観光産業の持続可能性への課題

オーストラリアでは、政府の観光政策が業界の持続可能性に与える影響が議論されている。Tourism & Transport ForumのCEO Margy Osmondは、連邦政府が旅客移動料(PMC)の引き上げを発表したことについて「これはホリデー税であり、ビジネス税だ」と批判している。オーストラリアは既に世界で最も高額で地理的に到達困難な観光目的地の一つであり、長距離路線に誇りを持つ一方で、コスト増加のたびに脆弱性を露呈する。

観光事業者は既に労働力、保険、燃料、エネルギーコストの大幅な増加を吸収している状況にある。旅行者自身も生活費の圧迫に直面し、国際航空業界は世界の一部地域で依然として脆弱な状態が続いている。第一印象の重要性は特に重要で、国際訪問者がオーストラリアに到着した瞬間が、空港や港湾ターミナルを出る前の国に対する感情を形成する。スムーズな到着体験は自信、エネルギー、興奮を生み出す一方、長い行列と時代遅れのシステムは正反対の効果をもたらす。全国の空港が長期マスタープランとともに大規模なアップグレードを計画している現在、オーストラリアの国境システムの将来方向性について明確なシグナルが必要とされている。

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