9月23日の米国市場の下げについて、原因は AI ではなかったと報じられている。きっかけは購買担当者景気指数(PMI)で、そこから金利が急に上がった。米10年債の利回りは一時5.13%まで上がり、2007年以来の水準になったと報じられている。同じ日、FRB(米連邦準備制度理事会)の Michael Barr 理事は、インフレを押し上げるショックの1つに AI 投資需要の急増を挙げたと報じられている。この2つを並べると、この日の本当の出来事が見えてくる。AI は市場を下げた原因ではなかった。一方で AI の設備投資は、中央銀行が物価を心配する理由の側に数えられ始めた。
最初に確度を断っておく。本紙は FRB の講演ページ(federalreserve.gov)にある Barr 理事の発言の原文にも、S&P Global の PMI の一次資料(pmi.spglobal.com)の数値にも、まだたどり着けていない。以下は Reuters などの報道をもとにしている。Barr 理事がどんな言葉で AI に触れたのか、PMI のどの項目が市場を動かしたのかは、一次資料で確かめるまで決まったものとして扱わない。
下げの原因は金利だった
今週はこれまで、AI が市場を動かす日が続いた。9月22日には AI による代替が大型の金融株に及び、Schwab が−6.11%、JPMorgan が−3.42%となった(本紙既報)。それだけに、23日の下げも同じ流れで読みたくなる。しかし報道によると、23日の下げは性質が違う。PMI の結果が景気と物価の見通しを変え、それが債券の売りを通じて株に及んだ。つまりマクロ経済の動きであって、特定の AI 企業や AI 製品についての悪材料は、下げの主因として挙がっていない。
10年債利回りの5.13%は、2007年以来の水準だと報じられている。それ以降の米国の金利環境で、この水準は一度もなかった。株式の評価はすべて、この利回りを基準に割り引かれる。この日の値動きは、AI の物語よりも割引率の変化で説明するほうが素直である。
Barr 理事が AI 投資を「ショック」に数えた
そのなかで、Barr 理事がインフレを押し上げるショックの1つに AI 投資需要の急増を挙げたと報じられている。これまで AI について市場で語られてきたのは、主に次の2つだった。1つは、生産性を上げて長い目で見ればインフレを抑えるという期待。もう1つは、バブルが崩れたときに金融を不安定にするという心配である。報道どおりなら、Barr 理事の発言はこのどちらとも違う。データセンター、電力設備、半導体、メモリへの投資が総需要を押し上げ、今の物価に上向きの圧力をかけている、という需要側の見方である。
この見方には政策上の意味がある。中央銀行がインフレのショックとして名前を挙げたものは、利下げを遅らせる理由や、引き締めを続ける理由として説明に使われうる。AI の設備投資は、民間企業の強気な賭けというだけでなく、金融政策を決めるときに考慮される要因になった。本紙がこの記事で最も伝えたいのはこの点である。ただし、これが FRB 全体の見方なのか、Barr 理事個人の分析なのかは、原文を確認しないと判断できない。
設備投資と金利の循環
この発言が重いのは、AI の設備投資の多くが借入で賄われているからである。本紙が追っている案件だけでも、次のようなものがある。
- SoftBank の約110億ドル相当、5トランシェのジャンク債。9月24日に価格決定予定。
- Blue Owl と CoreWeave のリッチモンド案件の約11億ドルの債券。
- AI 関連の発行体の社債スプレッドは約115bp で、投資適格の指数の78bp より37bp 高いと Reuters が9月22日に報じている。
これらはいずれも金利の水準に直接左右される。
ここで循環ができる。AI の設備投資が需要を押し上げ、中央銀行がそれをインフレ要因に数え、金利が高止まりする。すると次の設備投資の資金調達が高くなる。これまで「AI の原価問題」は、推論の単価やトークンの消費量として語られてきた。この循環が本当に働くなら、資金を借りる費用という、もう1つの原価が加わる。9月23日に市場を下げたのは AI ではなかった。しかし、その日に上がった金利を支える理由の1つとして、AI が名前を挙げられていたことになる。
今後見ること
最初に確かめるべきは、Barr 理事の発言の原文である。AI 投資をどんな言葉で、どの程度の重さで挙げたのか。一時的なショックとして扱ったのか、長く続く需要として扱ったのか。次に、今週の起債の条件を見る。SoftBank の債券の9月24日の価格決定と、同じ日の米東部時間14時に FRB が公表するディーラーの資金調達調査(SCOOS)である。5%台の10年債利回りのもとで、AI 関連の起債のスプレッドや条件がどう変わるかを確認したい。一次資料を確認できたら、続報で訂正または補足する。




