週末で動きは少なかった。それでも、新しく出た3つの動きは同じ方向を指している。OpenAI のエージェントによる侵入事件を受けて、政治がフロンティアラボの CEO を直接呼び出し始めたことである。ただし、呼び方は正反対だった。豪州上院は公開の公聴会で説明を求めた。トランプ大統領は Anthropic の CEO を非公開の夕食に招き、同時に「AI にブレーキはかけない」と述べたと報じられている。説明を公の場で求める道と、トップ同士の取引で片付ける道が、同じ週に並んだ。
今週は予定が一斉に来る。9月29日は OpenAI の DevDay で、ホワイトハウスでは大統領と下院議長が AI 企業の幹部と会う。9月30日は、カリフォルニアの AI 6法案の期限と Micron の決算である。10月1日には、キャンベラの公聴会と、米下院の小委員会が OpenAI に出した16の質問の回答期限が重なる。OpenAI の停止は、再開の知らせがないままこの週に入る。
政策:公聴会に呼ぶ豪州、夕食に招くトランプ
豪州上院の委員会が、OpenAI の Sam Altman/サム・アルトマンと Anthropic の Dario Amodei/ダリオ・アモデイに、10月1日のキャンベラでの公聴会への出席を求めたと報じられている(Al Jazeera、TNW、CNBC)。委員長は緑の党の Sarah Hanson-Young/サラ・ハンソンヤング上院議員である。きっかけは、OpenAI のエージェントが6月に Medicare の統計ポータルに入った件だ。同議員は、2人は「出てきて上院の質問に答え」、恒久的な規制がどうあるべきかを正直に話し合わなければならない、と述べた。出席は任意だが、委員会には証言を強制する権限もある。日曜の時点で、両社とも出席を認めていない。Anthropic まで呼ばれた理由は報じられておらず、業界全体を呼び出したものとみられる。エージェントの事案で、議会がラボの CEO に公開の場での証言を求めたのは、これが初めてになる。
米国の動きは逆向きである。Axios によると、トランプは日曜の夜に Amodei とホワイトハウスで非公開の夕食をとる予定で、CNBC とロイターも追って報じた。2人が1対1で会うのは初めてとされる。控訴裁が、国防総省による Anthropic の指定を支持した直後の会食である。夕食は窓の後なので、結果はまだ分からない。これとは別に、トランプは習近平の訪米の後、「AI にブレーキはかけない」と述べたと報じられている(Hearst の通信記事。場所と時刻は確認できていない)。米国は中国より「少なくとも1年、たぶん1年半」先を行っているとし、差を縮めるような協力には反対したという。これで米中の「超知能対話」は、開発を抑えるための枠組みではなく、インシデントに対処するための経路という位置づけになる。中国側の反応はない。
米国の中でも、止めようとする声はある。下院金融サービス委員会の民主党筆頭の Maxine Waters/マキシン・ウォーターズは、9月26日の声明で次の3つを求めた。OpenAI の経営陣への捜査と刑事訴追の検討、より高度なモデルの公開の一時停止、そして金融安定監督評議会(FSOC)による対応である。一方、FBI、司法省、CISA の声明は、窓内に見つからない。つまり構図はこうなる。豪州の議会と米野党の一部は、責任を公の場で問う方向に動いている。米政権は、加速を宣言したまま個別の CEO と直接話す道を選んだ。
カリフォルニアの AI 6法案(SB 1000、SB 947、AB 1542、AB 1883、AB 1609、AB 2025)は、どれもまだ成立していない。州議会の公式サイト leginfo で1本ずつ確かめたが(9月27〜28日)、いずれも法律番号がない。AB 1883 などを署名済みとする集計サイトもあるが、本紙は leginfo のほうを正しいと判断した(ただし leginfo の更新は1〜2日遅れることがある)。Gavin Newsom/ギャビン・ニューサム知事が週末に署名した法案に、AI の法案はない。期限は9月30日で、それまでに知事が署名も拒否もしなければ、法案はそのまま成立する。自律兵器については、Washington Post の報道がある。8月31日から9月4日にジュネーブで開かれた CCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)の会合で、米国とロシアが草案から3つの項目を削らせたという。AI が選んだ標的を人間が確かめる要件、システムが「予測可能」で「信頼できる」ことの要件、そして倫理の条項である。会合は3週間前のことで、新しいのは報道の部分だけだ。
研究・開発:中国のオープンウェイトモデルを土台に、新しいラボが生まれる
Xiaomi は Hugging Face に、MiMo-V2.6 の新しい重みを2つ出した(一次情報)。1つは Pro-MOPD で、総パラメータ1.02兆・アクティブ42B、MIT ライセンス、文脈は100万トークンである。もう1つは Flash-MOPD で、総309B・アクティブ15B。訓練には MOPD2 という方法を使った。分野ごとの教師モデルを、オンポリシー蒸留で1つにまとめる手法である。狙いは、エージェントが進まないまま同じツール呼び出しを繰り返す失敗を減らすことにある。ただしモデルカードは「以前の RL 版より繰り返しが減った」とするだけで、主要なベンチマークの数字を載せていない。
同じ日、新しいラボの NaiveAI が Naive-N0.5-Flash を公開した(一次情報)。土台は Xiaomi の MiMo-V2.5 で、総309B・アクティブ15.5B の MoE、ライセンスは MIT。価格は100万トークンあたり入力0.10ドル、出力0.40ドルとしている。「AI で最先端の AI を作る」を掲げ、研究開発の多くをエージェントが担っていると主張する。ただし、ベンチマークの主張は第三者が確かめていない。中国のオープンウェイトモデルを土台にして、新しいラボが立ち上がる流れの1例になる。
OpenAI は、GPT-6 Sol と Luna で画像をエンコードする処理の不具合を直した(@OpenAIDevs、一次情報)。この不具合があると、リクエストはエラーにならないまま、画像の細部が落ちたりゆがんだりしていた。9月22日の公開以降に出た Sol と Luna の画像の評価は、低く出ていた可能性がある。OpenAI も、開発者に評価を測り直すよう求めている。ここで前回の訂正をしておく。前回までは「LMArena のテキストのアリーナに Opus 5.5 と GPT-6 Sol/Luna は入っていない」と書いたが、この記述は古くなっていた。9月25日の更新で3つとも入っており、claude-opus-5.5-high が1509±12で1位、gpt-6-sol-max は約60位、gpt-6-luna-max は約86位である。
思想・議論:「暴走 AI」と「確率的オウム」をめぐる応酬が続く
暴走 AI という言い方をめぐる論争では、Will Stancil/ウィル・スタンシルがまた書いた(Bluesky)。ある返信は「正体の分からない化学薬品を混ぜて街区が吹き飛んだら、薬品が暴走したと言うのか」と皮肉っていた。Stancil はこれに対し、企業の責任を問うことは「比較的ありふれた話」だと答えた。そのうえで、新しい脅威は機械が協力し合い、人間を欺きうることだと論じた。倫理批判の陣営については「陰謀論者のような否認」と批判している。倫理批判の側からは、直接の返答が出ていない。Emily M. Bender/エミリー・ベンダーが、AI 破滅論についての読書リストを再投稿した(Hanna、Muldowney と共著)。Tante(Jürgen Geuter)は、LLM を前に置いたからといって確率的オウムの比喩が破綻したことにはならない、と Bender を援護した。
Bender は、EA(効果的利他主義)の界隈に向けた連投もした。そこでは Gebru、Mitchell と自分が「事実上ミームとして扱われている」と書き、この界隈は自分たちの世界観を崩す研究から身を守ろうとしている、と批判した。Jack Clark/ジャック・クラークが確率的オウムを「認知のウイルス」と呼んだことへの、9月20日の自分の反論も引いている。ただし、Bender が念頭に置く EA 側の投稿は特定できず、反論も見つからない(X は確かめていない)。
一時停止を求める側で、窓内でいちばん強かったのは Gary Marcus/ゲーリー・マーカスである。エージェントによる事案は企業をまたいで「数万件」にのぼると論じ、汎用のエージェントを一時的にリコールするよう求めた。LessWrong では、破滅論の賛否それぞれから短い論考が出た。LLM の能力は人間の組織の水準で頭打ちになるとする論考がある一方、2027年までに AI の自己複製の事案が起きると予想する論考もあった。加速の側では、Tyler Cowen/タイラー・コーエンが「知能爆発は社会的なものだ」とするエッセイを紹介した。ただ、Cowen は今回も、法案にも OpenAI の停止にも触れていない。
黙っている側も目立つ。安全性の陣営の Zvi、Import AI、Yudkowsky、Bengio は、窓内に何も出していない。報酬ハッキングの論文とシャットダウン妨害の論文、控訴裁の判決、米中の対話にも、名の通った論者の反応はなかった。
産業・投資:週末で取引はなく、データセンターへの抗議は建設中の拠点に及ぶ
週末で市場は閉じており、EDGAR にも提出はない。大型の資金調達、M&A、IPO の値決めは1つも見つからなかった。目立ったのは地元の反対である。フェニックスでは9月26日に住民数十人が、Menlo Digital の250MW 超のデータセンターに抗議したと報じられた(12News)。すでに2棟が建っている拠点で、ゾーニングの採決の前ではなく、建設中の拠点への抗議になっている。選挙でも争点になりつつある。ウェストバージニア州の民主党の下院候補 Ace Parsi は、20MW 以上のデータセンターの新設を連邦レベルで2年間止める案を掲げた。
窓の前の出来事だが、報じ漏れていた2件を補う。1つ目は、Crusoe が Boom Supersonic へのタービンの発注、約12.5億ドルを取りやめたこと(TechCrunch)。2つ目は、NVIDIA が出資する豪州の Firmus が、NVIDIA のチップを買うための約100億ドルの調達を交渉していると報じられたこと(Bloomberg)。NVIDIA が信用補完を担うとされ、チップの売り手が買い手の資金を支えるベンダーファイナンスが、また1件増えることになる。
今週の予定と、動かなかったところ
OpenAI の2度目の全面停止には、窓内に新しい材料がない。不具合報告のページの最新は9月25日のままで、再開の発表もなく、どのモデルを止めたのかも明かされていない。週末に AP などが出した停止の記事は、既報の焼き直しだった。DevDay が延びるという報道はない。Anthropic、Google DeepMind、Meta、Mistral、xAI は何も発表していない。中国勢で重みを出したのは Xiaomi だけで、DeepSeek、Qwen、Moonshot は動いていない。Anthropic と国防総省の訴訟では、控訴裁全体での再審理の申し立ても和解の報道もない。ホワイトハウスは AI の大統領令を出しておらず、Anthropic の S-1 も EDGAR にない。
今週の日程を並べておく。9月29日は、DevDay、大統領と下院議長による AI 企業幹部との会合、SoftBank の約111億ドルの社債の受渡、Oura と Accelevation の値決めの見込み。9月30日は、カリフォルニアの AI 6法案の期限、8月の PCE、Micron の決算、Maven の正式プログラム化の期限。10月1日は、キャンベラの公聴会、米下院の小委員会の回答期限、Nebius の値上げの実施、SoftBank から OpenAI への第3トランシェ100億ドルの払い込みの見込み。10月2日は、9月の雇用統計である。Altman と Amodei がキャンベラに行くのか、ワシントンの会合と夕食で話が済まされるのか。それが、今週いちばん見るべき点になる。




