日本における生成AIの活用状況を年代別に切り分けると、単純な「若者は使い、高齢者は使わない」という図式では説明できない複雑な実態が浮かび上がる。千葉大学予防医学センターの中込敦士准教授らの研究グループが2025年1月に実施した全国調査(回答者1万3367人)によれば、過去1年間に生成AIを利用した人はインターネット利用者全体のわずか21.3%にとどまった。千葉大学のプレスリリースは、この非利用の実態を「単なる関心の欠如ではなく、年齢や教育、デジタル環境に根ざした構造的な格差の表れ」と結論づけている。約8割が生成AI未経験という数字は、国内での報道が示す「生成AIブーム」のイメージとは大きく乖離しており、都市部の一部層に体験が偏っている実態を裏付ける。
使わない理由が世代で真逆になる「AI格差」の構造
同調査で非利用者に理由を尋ねたところ、最多は「必要性を感じない」39.9%、次いで「使い方がわからない」18.5%だった。しかし年齢層別のjoint analysisで見ると内訳は大きく異なる。若い世代では「魅力的なサービスがない」が強い障壁となる一方、中高年層では「使い方がわからない」「セキュリティへの不安」「利用環境が整っていない」といったスキルやリスク認知に関わる理由が目立った。Forbes JAPANの紹介記事でも、利用率が高いのは新しいものを受け入れやすい男性、高学歴、都市部居住者、デジタルリテラシーが高い層という傾向が示されており、年齢だけでなく社会的地位や資源へのアクセスが利用可否を左右する構図が明確になっている。同記事は、この傾向が教育投資や情報環境への格差とも連動しており、単発の啓発イベントでは是正が難しいと警鐘を鳴らしている。
Z世代73.3%対社会人層――20〜30ポイントの乖離
この構造的格差は世代間で数値としても顕著だ。サイバーエージェント次世代生活研究所が2026年3月に発表した「Z世代の生成AI利用実態調査」(有効回答11,147サンプル)では、17〜28歳のZ世代の生成AI利用経験者は73.3%に達した。同調査によれば、学生層と30代以上の社会人とでは20〜30ポイントもの乖離が生じており、ツール別ではChatGPTが60.8%で圧倒的首位、Google Geminiが34.2%で続く。Z世代はSNS投稿制作の47.4%が生成AI活用経験ありと回答し、投稿時間短縮や文章作成の労力軽減を目的に日常的にツールを使い分けている実態が明らかになった。千葉大学調査の21.3%という全体平均と比べると、Z世代の突出した浸透度が際立つ。この乖離は、学校教育やSNS環境を通じてツールコーリングやプロンプト設計に自然と触れる機会があるかどうかの差でもあり、社会人になってからの学び直しの難しさを浮き彫りにしている。
シニア層でも急拡大、8カ月で47%から64%へ
他方で、高齢層が完全に取り残されているわけではない点も見逃せない。株式会社いつもが2025年12月に実施した「商品検索における生成AI活用の実態調査」(回答者534名)によると、商品検索でのAI検索経験率は2025年4月の47.1%から8カ月で64.0%へと16.9ポイント上昇した。同社の発表では、60代のAIツール利用経験は52.3%、商品検索への活用経験も53.3%と半数を超えており、シニア層でも「タイパ(時短)」を最大動機に生成AIが日常の買い物ツールとして定着しつつある。20代の商品検索活用率79.5%と比べればなお差はあるが、8カ月という短期間での急伸は、適切な導線と用途があれば高齢層でも利用が進むことを示している。同調査は、シニア層が音声入力や画像検索といった直感的なインターフェースを好む傾向を指摘しており、UI設計次第で利用障壁を大きく下げられる可能性も示唆している。
「AIネイティブ」という新概念とデジタル定住者の可能性
日本財団ジャーナルのインタビューに応じた高橋利枝氏(早稲田大学)は、デジタルネイティブ、デジタル異邦人、デジタル定住者、デジタル移民という4分類を提示し、これがAI利用にも当てはまると指摘する。同記事では、ハーバード大学の定義に基づき1985年以降生まれ(現在40歳前後)をデジタルネイティブ、Z世代を「AIネイティブ」と位置づけ、大学生が「小中高生にAIを使わせると本当に何も考えなくなる」と語る様子から、次世代への追い抜かれへの恐怖すら読み取れるという。同時に高橋氏は「若い人も高齢者も、全員がデジタル実践者になれる」と強調し、年齢のみで区切ることへの批判も紹介している。実際、シンガポールのビジネスパーソンが「プライベートでは生成AIを活用している」と語る例のように、年齢よりもリテラシーと意欲が受容度を左右する側面は無視できない。企業研修においても、年齢別ではなく「実践頻度別」にプログラムを組み直す動きが今後広がる可能性がある。
格差解消への実務的な取り組みと総務省データ
総務省「令和5年通信利用動向調査」では、13〜69歳のインターネット利用率が90%を超える一方、70〜79歳は67%、80代以上は36.4%にとどまるとされ、年齢によるデジタルデバイドは依然として残る。ジチタイワークスWEBはこの格差を地域間・個人間・国際間の3類型に整理し、自治体による解消策の重要性を説く。ソフトバンクは自治体と連携し「初めての生成AI」「AI検索を体験」といった60分講座を展開するほか、同社の取り組みでは貧困家庭への情報通信端末の無償提供や、AIを用いた手話・音声変換サービス「SureTalk」など、経済格差や障がいによるデバイド是正にも着手している。生成AIの利用率21.3%という全体像の裏には、世代・所得・リテラシーが絡み合う複層的な壁があり、単一の啓発策では解消しきれない構造があることが、これら複数の調査から浮かび上がる。
企業が今取るべき実務対応
これらの数値が示す最大の含意は、社内のAI活用格差が「年齢」という単純な軸だけでは説明できず、部署や職掌ごとのリテラシー差として組織内に潜んでいる点だ。研修設計を年代別・利用経験別に分岐させ、非利用者にはまず「使い方」を教える基礎講座を、既存利用者にはオーケストレーションやAIエージェント基盤の活用など高度な内容を提供する二段構えが求められる。同時に、無許可のShadow AI利用が拡大するリスクにも備え、利用ログの可視化とAIガードレールの整備を並行して進める企業が今後増えるとみられる。




