AIエージェントが人に代わって決済や取引を実行する「エージェント経済」が、実験段階を抜け出し実運用フェーズに入った。ビジネスワイヤの報告によれば、AIショッピング・エージェントによる決済取引は1週間で1億2000万件に達しており、議論の中心は「AIエージェントは決済できるか」から「どの規格・基盤で決済を処理するか」へ移行している。数年前まで自律購買はデモや概念実証の域にとどまっていたが、複数の大手決済プレイヤーが同時期に本番投入を進めたことで、規格間の主導権争いという新たな段階に入った。
Coinbaseのx402規格、AIアクセスが人間を上回る
コインベースは7月24日、AIエージェント向け決済機能を3分野で拡充した。CoinPostの報道によると、同社はブロックチェーン基盤「Base」の開発者向けページで、AIエージェントによるアクセス数が7月初めに初めて人間を上回ったと説明した。企業向け「Coinbase Business」ではUSDC決済受け入れに対応し、残高保有で3.35%の還元が付与されチャージバックも発生しない。個人向け「Coinbase for Agents」では「ビットコインが5万ドルを下回ったら全て売却する」といった自然言語指示でAIが市場を監視・執行できる機能を追加。開発者向け「CDP x402 SDK」により、決済導入コードは3行程度に短縮され、AIエージェント自体にウォレットや支出上限を設定するポリシー機能も提供された。x402はHTTPの402ステータスコード「Payment Required」を再活用した設計思想で、APIリクエスト単位での即時マイクロペイメントを可能にする点が開発者に支持されている。
Yellow×GenLayer「Internet Court」、清算をどう担うか
決済実行と並行して、紛争処理を含む取引全体の「清算」を担う基盤整備も進む。Yellowの発表によると、GenLayer Foundationが2026年7月10日に立ち上げた「Internet Court」にはOKX、ConsenSys MetaMask、Matter Labs、0G Labsを含む27社が創設メンバーとして参加している。Yellowはその中核機能として「Settlement Room Skill」をMITライセンスで提供し、複数のAIエージェントが1つのルームに資金をデポジットし、個別ペアごとのエスクローを用意せず共同決済できる仕組みを実現した。オンチェーン処理は最終決済の1回のみで、資金のリリースには複数署名(クオーラム)が必要となる。GenLayer Foundation CTOのIván Raskovsky氏は「エージェント市場は多者間・高頻度・文脈情報に満ちた市場になる」と述べ、Yellow共同創業者のAlexis Sirkia氏も「エージェントは自分自身のために売買を行っており、その取引はどちらの当事者も信用を前提にしない場所でクリアされる必要がある」と語った。両者の発言は、人間同士の商取引で前提とされてきた信用関係が、エージェント同士の取引では成立しにくいという課題認識を反映している。
Visaは欧州で実取引を開始、国内でも実務検証が進む
Ledge.aiの報道によれば、Visaは欧州においてAIエージェントによる「買い物代行」の実取引を開始し、独立加盟店サイトでの購入完了まで一連の処理を完結させた。これまでの実証段階から一歩進み、既存の国際決済網の上でエージェント主体の商取引が本格稼働する事例となった。カード会社としては加盟店ネットワークを維持したままエージェント経済に対応する道筋を示した点が注目され、Coinbaseやx402陣営とは異なる「既存インフラ活用型」のアプローチとして位置づけられる。一方、アウラムの発表によると、東京都中央区の同社(代表取締役・福田和博氏)はAIエージェントによる銀行API操作を実務検証し、資金移動を伴う業務でAIと人間の役割分担を明確化した。実物資産の所有権や担保権の状態を現物を動かさずに管理する仕組みと組み合わせ、資金移動を伴う自動化業務でどこまでAIに権限を委ねるかという運用ルールの整備が進んでいる。
業界への影響と今後の論点
Coinbaseのx402、Yellow・GenLayerのInternet Court、Visaの既存決済網という3つのアプローチが並走することで、決済・清算・紛争処理の各層で規格の主導権争いが始まっている。EC事業者や金融機関は、どの規格に対応するかで導入コストとチャージバックリスクが大きく変わるため、早期の技術選定が競争力を左右する局面に入った。ブロックチェーン発のx402やInternet Courtは開発者主導でスピード感がある一方、Visaのような既存網は加盟店契約や消費者保護の枠組みをそのまま利用できる強みがある。国内でもアウラムのような実務検証が進むことで、資金移動を伴う業務でのAIへの権限委譲ルールが業界標準として整理されていく可能性が高い。




