カクヨム1位事件が示した『量産性』という脅威
2025年10月29日、Togetterで話題になった投稿によれば、Web小説サイト『カクヨム』の日間総合ランキング1位にAI生成小説が浮上した。話題の中心は完成度そのものよりも物量だった。Togetterのまとめによれば、当該作者は1日に38本もの更新を行い、10万文字規模を出力していたという。読者の間では「このレベルが安定して出されたら人間の8割は勝てない」「AIの脅威は量産性」といった声が上がり、1日1万文字の投稿上限を設けるべきだという意見も出た。
注目すべきは、この作品が「AIっぽい文章ではあるが脳に負担がかからず読みやすい」と評されている点だ。テンプレート的なストーリー構造にAIを誘導する手法は、従来「作家性を消してマーケットインに徹した作品はAIが強い」と予想されていた領域そのものであり、Web小説というジャンルの評価軸が量と読みやすさに偏っていたことをあぶり出した格好だ。
新人漫画賞が突きつけた『あなた自身』という問い
同時期、紙とWebをまたぐ漫画公募でも同じ問いが表面化している。第98回新人コミック大賞青年部門の結果発表で、審査員の浅野いにお氏は総評でこう述べた。「AIの画像生成が実現した現在、なぜあえて人間が苦労して創作をするのかを考えなければならないフェーズに入ってきた。教科書通りの作品はAIが作れてしまうかもしれないが、あなた自身のことはAIは作れない」。
入選作「嗜癖者のマリヤ」(万屋タタラ・23歳)には、太田垣康男氏が「日本の漫画表現の枠に納まらない豊かな作家性を感じた」と評した。同じく入選の「仁太の神様」(菅原譲志郎・29歳)では、こざき亜衣氏が「上手いだけじゃなく、心のこもったネームだと思いました」とコメントしている。佳作「追え!奴は掟破り」(大久保和希・26歳)については、太田垣氏が「未熟な部分を勢いでカバーするのは新人漫画家の正しい戦略」としつつ、技術習得の必要性にも言及した。これらの評は共通して、技術的巧拙よりも「作者本人がどれだけ露出しているか」を評価軸に据えている。
現場の作家は道具をどう線引きしているか
創作者の現場では、AIを完成品の生成器としてではなく思考の壁打ち相手として使う実践が広がっている。同人作家「うに」氏はnoteで、自らのAI活用について「AIが答えを出す、ではなく、AIと一緒に試行回数を増やす」方向だと説明する。ネームの壁打ちやコマ割りの比較、背景の間取り設計などにAIを使うが、「完成背景をAIに描かせたいわけではない。自分が背景を描くための60点の叩き台が早く欲しい」という姿勢を貫いている。同氏が試行中の背景・小道具支援「KODOGU」も、感情やシーンから必要な空間・光・小道具を考える補助線であり、代替ではなく加速装置としての設計だ。
一方、『秒速5センチメートル』作画監督の西村貴世氏は、生成AIが既存表現の特徴を組み合わせて出力する仕組みと、人間の創作が過去の経験から自由ではない点との類似性を指摘している。この視点は、AIと人間の創作を対立軸で語ること自体の限界を示唆しており、カクヨムの事件や新人賞の総評とあわせて読むと、問題は「AIを使ったか否か」ではなく「何を晒したか」に移行しつつあることが分かる。
オリジナリティの評価基準はどこに向かうか
OCメーカー系サービスの隆盛も同じ潮流の一部だ。プロンプトとタグの組み合わせでオリジナルキャラクターを大量生成する仕組みが普及する中、既存キャラクターの顔や衣装、存命アーティストの画風を混ぜ合わせることは「認識可能な要素のコラージュ」に過ぎず一貫したオリジナルキャラクターにはならないという注意喚起がなされている。これは、AI創作におけるオリジナリティが「新規性の演出」ではなく「一貫した内的論理」によって担保されるべきだという示唆であり、小説や漫画の議論と地続きだ。
Web小説の量産競争と、漫画公募の作家性評価は対照的に見えて、実は同じ問いの表と裏である。プラットフォームがランキングという定量指標に依存する限り、AIの物量は圧倒的な優位を持つ。一方、公募や編集の目という定性評価の場では、「あなた自身のことはAIは作れない」という浅野氏の言葉が示す通り、評価軸そのものが技術から個人史へとシフトしている。今後、投稿数制限や生成AI利用の明記義務化が各プラットフォームで進むと同時に、作家性の証明責任は「どう描いたか」から「なぜそれを描いたか」へと重心を移していくだろう。



